僕を埋め尽くす秘密
バイでリバの♂が恋愛仕事人生等に悩みながらも真面目に生きてるよ

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送火
お客さんの話。


多分40代くらいの女性常連客、仮名は磯野さん。
由来は芸能人の磯〇貴理子さんに似てるから。
喋り方とか声とか雰囲気がね、ちょっとだけ。

店でのキャラクターは専らお節介おばさん。
いつも他人の悩み相談ばかり聞いてあげて、
時には味方になってあげて、叱咤激励してあげて、
いつも自分のことは後回し。
主に若者、特に女の子に優しかった印象が強い。

彼女は誰にでも優しかったけど
誰も彼女に優しくは出来なかった。
彼女は弱った所を見せてはくれなかったから。
いつでも明るく朗らかに「私は大丈夫」と言う。

うちのお客さんは皆、彼女のことを
好きだったんじゃないかな。
たまに疎ましく思う人もいたけど
磯野さんも空気が読めない人ではないので
そういう人には遠巻きに眺めるに留めていた。

勿論僕も大好きだったよ。
年上だけど、可愛い人だと思ってた。
自分を後回しにして損な役を引き受けてしまう、
その不器用さと優しさが堪らなく可愛かった。

今年のまだ寒い時期、彼女の葬式に参列した。

正確には押し掛けた、かな。
店の常連さんやマスタとマリさんと一緒に。
そこで知った幾つかの事情があった。

磯野さんはバツ1で、息子さんが1人いたけど
元夫に取られてしまって1人になってしまったこと。
その後すぐに実父が病気になり要介護に、
それから間もなく実母も介護が必要になり、
たった1人で両親を介護してたこと。

磯野さんの両親が亡くなり
これからやっと自由な時間が持てるという時に
自分も病気になっていたこと。
うちの店に通い始めたのはその頃かな。

誰も彼女の病気を知らなかったことにも驚いたけど
葬式に息子さんが来ていないことに、もっと驚いた。
元夫が拒否したとかなんとかで。
お前は来なくていいけど息子は来させてやれよと
思ったのは僕だけではないはずだ。

身寄りの無い磯野さんは遠い親戚に託されて
最初は通夜も葬式もしない予定だったって。
それじゃあんまりだとマスタとマリさんが掛け合って
ごくごく小さな葬儀をやってくれることになった。

僕らも常連さんも、話を聞いた人は皆行く気満々。
昨日の今日のような急な話だったにも関わらず
28人集まった。

磯野さんの命を奪ったのは病気ではなく
ありふれた交通事故だった。
でも病気でいつどうなってもおかしくないと
自分で考えていた所があったのか、
自宅の身辺整理は粗方済んでいた。

集った黒服の28人、年齢も職業もキャラもバラバラ。
急な予定だったので髪の色が明るい人もちらほら。
磯野さんの遠縁に当たる親戚さんはたった2人。
30人で彼女の骨を拾い集めた。

磯野さんの親戚は、磯野さんとは殆ど面識が無く
どんな人なのか知らないと言っていた。
僕らは我先にと彼女の人柄を話して聞かせた。

優しい人に限って命が短いのは何故なんだ、と
思わずにはいられない葬儀だった。
とにかく義務だけは果たそうと冷静な親戚と
目を赤く腫らした僕達の感情のコントラストに
胸が痛むやら悔しいやら。

早めに終わった葬儀の後、僕ら28人は
そのまま事故現場へと向かった。
親戚2人は行かないって。別にいいけどさ。
「こんなに友人がいたのか」と
驚かせてやれただけでも儲けもんだ。

事故現場で、先に来ていたサトルと合流。
彼もきっちり喪服を着用。
黒服の一団は総勢29人となった。

前日の夜に話を聞いたサトルは
「俺はその時間行けそうに無いから
 これ持って行って」
と僕に香典を託した。

その場で中身を見ちゃダメだろうと思い
そのまま葬儀場まで持って行った。
多分アイツのことだから、僕の2倍は
包んでいるんじゃないのかな。
と思ったら、受付で開けてびっくり10倍だった。

本当に簡素な葬儀だったから
細かい作法は気にしなくて良いという話だったし
少ないのはダメでも多い分には問題無いのだろうか。
何にせよ、サトルも磯野さんのことを
気に入っていたことが知れて嬉しくなった。

広い車道に不釣り合いな狭い歩道。
道に不釣り合いな車の交通量。
こんなに広い道なのに、こんなに車も少ないのに、
こんなに見通しも良いのに。

殺風景過ぎる道の傍ら、真新しい小さな硝子片が
キラキラと事故を物語る。
生業で酒を扱う者としては、飲酒運転事故は
些か複雑な気持ちになる。

病気で死ぬのも苦しそうだけど
事故で死ぬのも痛そうだ。
自分だったらどうだろう、どう思うだろう。

どうせ長くないとわかっているなら
いっそのこと一瞬で、などと考えたりもするのだろうか。
それとも最後までしぶとく足掻きたいと思うのか。
僕なら出来れば、安らかに死ねたらいいと思う。

重い病気を患っていたクセに
磯野さんは当店常連屈指のヘビースモーカーだった。
誰も病気を知らなかったんだから
何も言うことはなかったけれど、今なら言う。
アンタほんとに何やってんだよ。

磯野さんがこよなく愛した銘柄の煙草を1カートン。
まずマスタが封を解き1本口に咥えて火を点し
供えられた花束の横に立てて添えた。
まるで線香代わりのような。

次に僕が箱を渡され、同じように立てて添えた。
僕の煙草もキツイ方だけど、磯野さんのは更にキツイな。
慣れない味に、喉に強烈な違和感を覚えた。
まるで磯野さんの最後のちょっかいのような。

普段は煙草を吸わないマリさんも
同じように口に1本咥えて火を点した。
昔吸っていた時期もあったのだろうか、
所作に微妙な慣れを感じて、妙に様になっていた。

次々に点る煙草線香、29本で済むと思ったら甘い。
最初のマスタは早くも3本目に火を点し
「これ全部吸いきるまで帰れねぇ」と
冗談なのか本気なのかわからないことを言い出す。

静かにくゆる煙は線香のそれよりも
遥かに人の目には厳しいもので、
慣れてるはずの僕でも目が痛み涙が滲む。
振り返れば全員の目に涙が滲んでいた。

誰かが「素直に線香にしときゃ良かったのに」と呟き
誰かが「こっちの方が磯野さんらしいだろ」とツッコみ
誰もが目をしばしばさせながら納得していた。

煙草の送り火はいかがでしたか、磯野さん。

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コメント閲覧

toyoさん こんばんわ。
磯野さん 最後に好きなタバコで送ってもらって
よかったですね。

年をとってくると、だんだん思い出だけで
現実にいない人が増えてくるなぁと
お盆は特に実感します。

私も絶賛夏バテ中。
しんどくてお墓参りにもいけてません。
お盆にトライしようと思ったエヴァも
みんな貸出中。
toyoさん 先に浮上して下さい。
【2012/08/13 23:43】 URL | とら #f3.AbFOU [ 編集]


toyoさんこんばんは。


僕もこの時期は、20歳を迎える事なく旅立っていった親友の事を思い出さずにはいられません。
大事な人が出来れば出来るほど、失った時の身を切る様な痛みが増えていきますが、それでも僕は出来るだけ長く見送る側に回りたいな、と感じています。

弔いっていうのは、亡くなった方の為じゃなく残された連中の為にするもんだ、って親父は良く言っていますが、磯野さんはきっと喜んでいるって僕は信じています。
【2012/08/17 02:49】 URL | 海藻 #- [ 編集]

良かった
磯野貴理子さん、確か私も同じくらいの歳です。
そして私にも息子が一人。
最後くらい息子に一目会いたかったと思う。
見送りも駄目だとはあんまりだ。
涙が出てきてしまいました。

本当に優しい方が先に逝ってしまうのは何故でしょうね。

亡くなったという知らせがどうやってtoyoくんたちの元へいったのかが不思議。
知らない間に亡くなってたということにならなくて、良かったと思いました。
toyoくんたちが見送ってくれたの、磯野さんは絶対見てると思う。
toyoくんたちも送ってあげられて、良かったですよね。
人の輪、和を大切にされるお店なんですね。

p.s.枕のご忠告ありがとうございました。
危うく.....。
【2012/08/17 09:22】 URL | R #- [ 編集]


いつか死ぬではなく、産まれてきた時から与えられた時間を消費していくのが、人生だと、何処かの偉い人は言っていたような。
トヨさんブログを読むとどーしても偉い人の言葉を思い出しています。
急に今まで元気でいた人を亡くされて、参列された方は悲しみと同時に色々な思いを持たれたとおもいます。
産まれた所へ帰って行かれて、今は楽に過ごしているといいですね。
【2012/08/18 00:51】 URL | k #- [ 編集]

>とらさん
とらさんこんばんは。
作法には則っていなくても
こういう時でも遊び心を忘れない面子が
粋な大人たちだな、と思いました。
決してふざけているつもりではないので
不謹慎には当たらないと思いますし。
僕は日本のお盆や法事などの行事を全く知りません。
恐らく家庭環境のせいですが
いつか参加する日がくるのかもしれませんね。

【2012/08/23 20:12】 URL | toyo #- [ 編集]

>海藻さん
海藻さんこんばんは。
幸い知人に若くして亡くなった人は
いないはずの僕ですが、想像するに衝撃を覚えそうです。
日本の葬式がやたらと忙しいのは、
遺族の悲しみを一時でも忘れさせる為だと
聞いたことがあります。
嵐が過ぎ去った後の冷静な気持ちで
悲しみに暮れる方が、パニックにならずに済みそうですね。
【2012/08/23 20:12】 URL | toyo #- [ 編集]

>Rさん
Rさんこんばんは。
最初に聞いたのは誰だかわかりませんが
僕はマスタから聞きました。
マスタは常連客から聞いて、その常連客もまた
他の常連客から聞いたそうです。
僕も聞いてすぐに思いましたよ、
これはみんなに伝えなければと。
多分僕の前に聞いた人たちも同じように考え
行動したのではないでしょうか。
それだけ、僕らにとって大切な人だったんでしょう。
大切な人の有事を聞き流すことは出来ませんでした。
僕自身がこういう気持ちだったので、
僕はそれほど不思議には思いませんでした。
寧ろみんなも同じ気持ちなんだなと感じた次第です。
どうでもいい人なら聞いても「へー」で
終わっちゃいますけどね。
磯野さんはそうじゃなかったんです。
この時までわかりませんでしたが。
【2012/08/23 20:13】 URL | toyo #- [ 編集]

>kさん
kさんこんばんは。
偉い人の言葉を全然知らない僕ですが
どこにそんな要素があるのか不思議です。
死後の世界とか全然信じていない僕ですが
自分はコミュニティーの中で
どうでもいい人間ではなかったんだとわかれば
嫌な気はしないだろうと思います。
【2012/09/08 12:25】 URL | toyo #- [ 編集]

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